陸軍将校の社会教育史(上下)
この本を読んで、ちょっと戦前の軍人に対する見方が変わった。
見方といっても戦後生まれの世代にとっては、旧軍の話は実感がない。
私の親の世代も終戦時に中学生。父親などは、軍人には威張り散らされた記憶しかないらしく、よく言わない(言わなかった)。
そもそも、一番多感な時期に学校行けば軍事教練、課外授業は工場動員、そこには軍人がいつのついていて、何かあると殴られた・・・そうだ。
でも、まだ徴兵される年代ではなかったから、贅沢は言えなかったのかもしれない。
そのうえの世代は大半が徴兵で駆り出されて、戦死された方もたくさんおられた。
旧軍の話は、後世にはよくは伝わっていないのは周知のとおり。海外でさんざん悪いことをしたとか、政府(議会)をないがしろにして、勝手に中国で戦線を拡大させたとか・・。あえて書くこともあるまい。
でも自ら興味を持って旧軍のことを調べたことはない。
漠然と思っていたのが、旧軍学校は超エリートだったという先入観。
具体的には、陸軍士官学校、海軍兵学校は戦前のエリート集団。一高・東大と進むのはもちろんエリートだが、家にカネがあるのが大前提(そういう意味では本当の貴族だったかも)。
一方で、士官学校・兵学校に入るのは身体頑健・頭脳明晰を併せ持つことが必要。しかも、中学へ進む必要があるものの、カネがかからないエリート校。逆に考えれば貧富の差を乗り越えて、真の秀才が集まる学校だった・・・と思っていた。
この本(著者の博士論文がベースのようだ)を読むとエリート軍人に対する見方が変わった。
陸軍幼年学校(士官学校の大多数が出身となる陸軍の中学校みたいなもの)は学費が無料ではなかったらしい。士官学校自体は今の防衛大学校のように給与があった模様。
でも東大(当時は一高)進学と比べると、やはりカネがある家庭は一高(東大)となったらしい。従い、超天才が進学する学校ではなかったようだ。
首尾よく、士官学校を卒業して陸軍将校になっても、給与は薄給のまま。出世に際しても各階級に定年があるため、なかなか昇級しない(したがって昇給もままならない)。
いつの世も、軍人に対する世間の風当たりは強く、基本給の改定もままならない状況であったようだ。
現代において、自衛官の待遇についての論評が色々あるが、基本的には経済的におかれた立場はむしろ戦前よりは改善されているのであろう。
と考えると、軍人の立場は難しかったんだろうなとも思う。
学校のレベルや人気を考えても、現代の防衛大学校、防衛医科大学校はそれなりのレベルにあるものの、トップレベルではない。
この辺の事情も今も昔も大差なかったと思える書であった。